2010年10月31日日曜日

小屋閉め

いよいよ、小屋閉めの日がやって来ました。
昨日は季節外れの台風のおかげで、宿泊客は0。もとい宿泊ゼロどころか、朝から晩まで通りかかる登山者の姿すらまったく有りませんでした。

もう館内の掃除すべき箇所はすべて掃除され、小屋中のガラスというガラスはぴかぴかに磨きあげられて電灯の灯りを眩いばかりに反射しています。誰かに命ぜられるでもなく、ぼくらは全員ストーブの焚かれている受付に集まって、ただ銘々静かに読みかけの本を読み続けておりました。
午後の4時からは、もう今日は誰も来ないだろうと、本来なら小屋閉め当日に行う作業を前倒しで開始。小屋中のジュースやビール、おみやげ品などを段ボールに梱包し、越冬する食品には毛布を何重にも巻きつけて凍結防止。窓には雨戸を、玄関以外の扉にはシャッターまで下ろしてしまいました。

晩ご飯は支配人が腕を奮った小屋閉めパーティーの名に相応しい豪華料理!
それをワインをお伴にもう食えない!ってとこまで詰め込んで、尽きないバカ話と酒とともにいつまでも今シーズン最後の行者小屋の夜は続くのでした……

写真は、昨日の夕方、雨風は相変わらずながら急に外が明るくなったと思って出てみたら、なんと稜線のうえにアーチを掛けていた虹。
広い広い山の裾野の森のなかに、これを見ているのはぼくら小屋番しか居ないのだと思うと感慨もひとしおに、ただその色の彩やかさと鮮明さに、小屋番であったことへの感謝というか幸福感を改めて認識したのでした。

「ありがとう!また来年。」

2010年10月27日水曜日

−8℃

写真は今朝8時半の気温です。これでも、夜明け前の最低気温からは2℃上がってるんですよ(笑)

今朝は気温が一気に急降下!

今日は最高でも2、3℃。頂上山荘では陽に照らされた日中でも、最高が0℃を越えることはなかったようです。
断熱性がイマイチな従業員部屋は、もはやダウンとニット帽なしには寝られません。

残念なのは、それでもまだ雪が降らないこと。休憩時間に登った稜線からは、はっきりと雪のついた白馬岳や妙高山が望めました。
冬はもう確実にすぐそこ。ただもう一歩。ただもう一歩!

このままの気温で明日雨が降れば、間違いなく明日は雪景色でしょう。

雪! 雪!! 雪〜!!!

2010年10月25日月曜日

小屋閉め間近

気がつけば、いよいよ小屋閉めまで一週間を切りました。行者小屋は今週末、土曜日の宿泊をもって今年の営業を終了します。

先週は毎年恒例のアイスキャンディ建設。ぼくら鉱泉スタッフも、忙しいなか手伝いに来てくださるガイドさんたちも慣れてきたのか、年々かかる時間が短くなってきて今年は一日半でほぼ作業が終わってしまいました。
本当に毎年ガイドさんたちにはありがたさで頭が下がりますm(__)m
キャンディの写真2枚目は、完成後さっそくドライパートで遊んでみるガイドさん。

そして今週。今日は低気圧の影響で終日雨とガス。午前中は窓磨きやお勝手の拭き掃除をして、午後は受付でまったり留守番。暇つぶしに、おやつに食べた小豆キャラメルの銀包みで折り鶴を。
せっかくなので、尻尾を下に向け切れ込みをいれて、テーブルにセロテープで貼ってみました。

……んん?
なかなかイイじゃん。

ちょっとしたジオラマ風。
影がまたいかにも飛翔する鶴っぽくてナイス。
出てきた折り紙好きな支配人に見せたら、おぉっ!とひと声唸られて、お褒めのお言葉をいただきました(笑)

まぁ夕食のときには邪魔なので撤去してしまうのですが……

こんな感じで、残り5日!
水曜あたりは待望の雪も降りそうだし、最後まで頑張るぞー p(>_<)

2010年10月22日金曜日

フォトコンに入賞!

今日の午前中のこと。自室で休憩をしていたら、携帯電話に見知らぬ番号から着信が。
なんだろう?と出てみたら、なんと先日応募した「茅野市観光連盟・八ヶ岳観光協会主催 八ヶ岳フォトコンテスト」の入賞のお知らせでした!

しかも、三点応募したうちの、二点も!!

携帯からのブログupで写真を載せられないのは残念ですが、「月沈み阿弥陀昇る」がモンベル賞、「雲海の夢」が蓼科高原賞でした。
写真はともに仕事が終わった小屋の消灯後、地蔵尾根を登って二十三夜峰の岩峰の下でシュラフカバーでビバークしながら撮影したもので、「月沈み……」は月が西の地平線に沈んだ後の光芒に浮かび上がった阿弥陀岳と天の川を高感度・短時間露出で写したもの。そして「雲海の夢」は、低層の雲海が下から街の明かりに照らされて、光る雲海に周辺の山並みがシルエットに浮かび、いちばん奥には富士山の端正な裾野を広げた影を入れた低感度・長時間露出で写したものです。
タイトルは、前者は自分で、後者のはフォトコンに応募する際に支配人の中村さんにいただきました。

コンテストの入賞作品は、茅野市文化センター(ってドコにあるんだろう?)や蓼科のピラタスロープウェイ山頂駅でも掲載されるらしいので、万が一行くことがあれば、是非探してみてください(o~-')b
いちおう11月末には茅野で表彰式もあるらしく、是非出席してくれと言われたので、スケジュールも調整しないと。

入賞者には多少の賞金に副賞の賞品もいただけるらしいのですが、じつは応募に先立って候補作品を10枚ほど規定サイズ(四つ切り)で現像したら、一枚1400円もしたので、じつは経済的にはまったくの「赤字」なのはココダケのおはなし……笑

なんにせよ、フォトコンテストなるものでの入賞はもちろん、応募したのすら初めてのことだったので、このお知らせは嬉しい限りでした。
もっともっと、みんなを唸らせるような写真を撮ってやる!p(>_<)

入賞した写真も、11月に小屋閉めして帰宅したらupします〜

2010年10月17日日曜日

北八ツ縦走レポート

さてさて。前回の日記、具体的になにが起こったのかは、また後日改めてご報告させていただきましょう。
とりあえずは前回の休暇での北八ツ縦走の報告を。

12日
ピラタスロープウェイ〜北横岳ヒュッテ(0.5h)
下界はなかなか良い天気だが、山に登るとガスがかかっていて風も強い。地図では坪庭から北横岳ヒュッテまでは一時間とあるが、実感は鉱泉から中山乗越までといった感じで30分。北横ヒュッテの夕食は食べ放題(に近いたっぷりさ)の桜鍋。つまり馬肉のすき焼きで、それはそれは美味かった。満腹。
基本1人でやっているというオーナーの島立さんも、ポリシーを持って山に対峙し、山小屋を経営している素敵な方であった。

13日
ヒュッテ〜蓼科山〜大河原峠〜双子池〜雨池〜麦草峠〜高見石〜中山峠〜本沢温泉(10.5h)
この日は気合いのロングデー。島立さんに朝弁をつくってもらい、まだ未明の5時に出発。ヒュッテに泊まっていた青年が、山にこだまする犬とも人ともつかぬものの叫び声を気味悪げに訊いてきた。あれぞ彼の有名な「おくやまに もみじふみわけ なく鹿の」声である。この時期、鹿は伴侶を求めてか、すでに相手が見つかった歓びなのか、森中に響きわたる声量で「キャイィーン」と鳴く。
渇水で底を露にした亀甲池で弁当を食い、蓼科山の登りで朝日が昇る。
この日のハイライトは双子池の紅葉であった。噂どおりぶっきらぼうな双子池ヒュッテのご主人自慢の雄池・雌池は赤黄の木々を揺れる水面に写し、容易には離れがたき落ち着いた美しさを造り出していた。
期待していった雨池は、亀甲池同様水面が下がっていて紅葉もイマイチで残念。麦草峠には12時着。滝沢牧場のアイスクリームを食べ、水を補充して高見石に向かう。見晴らしの良い高見石では、学校登山の中学生たちがやたらとヤッホーヤッホー叫んでいて実に賑やかだった。
中山峠まで登った時点で1時半過ぎ。すでに9時間以上歩いてきた疲れに加え、これから天狗岳に登っても東天狗と西天狗を両方ゆっくり見てる時間的余裕もないので、みどり池経由で本沢温泉まで。3時半着。
この日の宿泊客はぼくだけだったので、食事は従業員の人たちと一緒にいただいた。長時間行動後の温泉は最高だ。湯船に浸かっていると、あまりの気持ちよさに気絶するんじゃないかと本気で怖くなって、ほどほどで上がっておいた。

14日
本沢温泉〜東・西天狗岳〜硫黄岳〜横岳〜赤岳〜行者小屋(8.0h?)
本沢を7時半発。白砂新道の稜線直下で、半日休暇で天狗に登りにいっていた本沢の女の子二人に追い付き、東天狗まで三人でブラブラとピクニック気分で歩く。稜線のコケモモももう終わりだ。
東天狗頂上で彼女らと別れたあと西天狗往復。北は昨日登った蓼科山が、南はこれから登る赤岳ははるかに霞んで見える。天狗を下りて、夏沢峠のやまびこ荘で小屋番の緒方さんとココアをいただきながらおしゃべり。宿泊客はおろか通行人すら稀で、ひたすら木彫りをしているが、それにも厭きてきたとか……
そこから硫黄岳に登り返せばあとはもう歩き慣れた道のりで、硫黄岳山荘でお昼をご馳走になり、赤岳天望荘でコーヒーやらおみやげをいただき、赤岳頂上山荘ではスタッフ手焼きのケーキまでいただいて、文三郎道を下ったらもう午後の3時半だった。
行動時間は8時間でも、実際に歩いていたのは半分くらいなものだったろう。

きれいな紅葉も見られたし、これまで行ったことのなかった小屋の人たちともいろいろお話ができて、じつに良い休暇であった。
写真は近日中にupできたらと思います。

2010年10月15日金曜日

ターニングポイント/分岐点

人生とは、何かを計画しているときに起こる別のこと。

(星野道夫の著作から。シリア・ハンターの言葉)

まったく、これだから人生ってのは面白い。
大抵その「別のこと」は唐突に現れて、受け流すか、受け入れるか、ひとは熟慮の暇もなく選択を迫られる。

自らのための一歩を踏み出した者に、神は次なる分かれ道を用意するのだ。答えは神のみぞ知る。ヒトはその答えを想像するしかない。そしてその想像に従ってヒトは新たな一歩を踏み出す。

しかし、運命は常に想像を上回る。
ぼくらはそのときになって知る。次なるステップに昇るために必要なヒトやモノに、すでに自分が出逢ってきたことに。この世のすべての出逢いは、必然となりうる可能性を秘めている。

ぼくはいま、武者震いがする。
眼前に現れた「壁」を見詰めて。ぼくがこれまでの人生で得てきた総てのチカラを使って越えるべき「壁」を見詰めて。

気力は充分だ。きっとやってみせる。

2010年10月12日火曜日

北ヤツ縦走

前半の暴風雨でのんびりだった連休も終わり、今日から明後日まで三日間の休暇。
東京に帰るのも往復で一日かかってしまうし、せっかくだから北八ヶ岳から赤岳まで縦走してみることにしました。

硫黄岳から黒百合までは大学時代に友人と縦走して以来。黒百合から麦草峠は高校3年のときで徒歩クラブの夏合宿で歩いて以来(つまり8年ぶり!?)。
そして麦草峠以北はなんと初めて!の道なのです。

もともと、熱心にあちこちの山を登ってみるよりも、ひとつの山or山域をじっくりと歩いてみるほうが性に合うのか、じつは言うほど山を知らないワタクシだったりします。

とりあえず今日はいったん美濃戸口からバスで茅野駅に出て、所用を済ませたら再びバスでピラタスロープウェーまで移動。軟弱に文明の利器に頼って山を上がり、一時間ほど登って北横岳ヒュッテに一泊。
明日はできれば蓼科山をピストンして、その後麦草峠を経て本沢温泉まで。
そして温泉でゆっくりしたら、翌日は歩き慣れた硫黄岳、横岳、赤岳と縦走して行者小屋まで戻る予定です。

まぁ天気も悪くは無さそうだし、初めての北ヤツ、楽しみだぁな♪

2010年10月7日木曜日

夢見心地のお昼寝時間

連休に向けてひとり40kg×2往復の歩荷。昼飯食べたら二時間ほどの休憩を貰えたので、日差しも暖かいことだし、自室の布団を屋根で干す。
そしてぼくは、読み途中の英国執事を主人公にした"The Remains of the Day"(Kazuo Ishiguro)と、お気に入りの音楽がぎっしり詰まったミュージックプレーヤーを持って、屋根の上の布団の上に横になる。

この時期、晴れた日はつねに日陰の屋内よりも陽光差す屋外のほうが暖かい。
夏だと直射日光が強すぎて屋根の上で寝ていると変な汗をかいてむしろグッタリしてしまう。また、これ以上遅い時期になると晴れていても冬の風に凍えて昼寝どころではない。
布団干しの上で寝る贅沢は、春と秋の晴れた日、太陽はほんのりと包むように暖かく、風は体温を奪わない程度のひんやりさのときに限られる。

太陽が眩しくて、本が数行しか読めないのはいつものことだ。イヤホンのなかで、甘ったるい声の女性シンガーが槇原敬之の『遠く遠く』をカバーしている。本を傍らに置いて軽く目を閉じ、心地のよい音に身をゆだねる。黒いフリース越しに陽の強さを感じる。

太陽が薄雲に隠れたな。肌がうすら寒い……
あぁ暖かくなった。また太陽が現れた……

風が、心地よい……

気がつけば、曲が一周したのかイヤホンの音楽は鳴り止んで、頭上には太陽を覆い隠すように入道雲が湧いている。
こうなると太陽はなかなか出てこなくなるし、運が悪いと夕立まで降りだす。

ぼくはさっさと布団をまとめて窓から部屋に放り込み、こうして夢見心地のお昼寝時間は終わるのである。

2010年10月6日水曜日

雪の報せ

昨日は夜中の星空山行に加え、日中はひさびさの一日休憩をもらえたので疲れた身体でふたたび稜線まで登る。
普段は遠くて遊びにいけない小屋までも顔を出そうと、稜線をいったりきたり、登っては下って、またそこ登り返す。

さんざ身体をいぢめて、ボロッボロになるまで疲れはてて、夜倒れ込むように布団に横になると笠ヶ岳の相方からメールが届いた。


「初雪!!!!」


抗いがたい眠りの世界に吸い込まれながら、ぼくの心は暖まる。
待ち焦がれていた季節の到来だ。

2010年10月5日火曜日

星空山行

夜の10時。60リットルのザックに、カメラ機材、防寒具、少々のおやつ、それにたっぷりのお湯を入れた湯タンポを無造作に突っ込んで小屋を出る。寒冷前線通過後の、満天の星空。

通いなれた地蔵尾根をヘッドライトの灯りで登る。夜の登山は、いかにその道に慣れているかがモノを言う。週にニ、三回は往復しているこの道に、不安はまったくない。足下を照らすわずかな明かりさえあれば、身体が自然と足を乗せるべき場所へと運んでゆく。

10時半、地蔵の頭。稜線上を赤岳山頂、天望荘方面とは逆の方向へ進む。
両側が切れ落ちた細い稜線上でフと立ち止まり、ヘッドライトの灯りを消すと、水平180度を超える視角で広がる秋の星空に南八ヶ岳の山々のシルエットが浮かびあがる。
あまりにもたくさんの星々。この世のものとは思えない美しさ。

前回やはり小屋の消灯後に上がってきてビバーク撮影した二十三夜峰から今日は少し進んで、日ノ岳の一枚岩の鎖場下でザックを下ろした。ちょうど恒常的に吹く強い西風からは隠れて、なおかつ地蔵の頭をはさんで常夜灯の点る天望荘や赤岳山頂山荘を望むことができる場所だ。
登りの汗が冷えないうちに、急いでウールの厚手のアンダーを着て、その上にTシャツ、ダウン、雨具と重ねる。もうこの時期は行者の標高でも朝は0℃に達する。稜線上なら氷点下は確実だ。頭も薄手の目出帽の上にニット帽をかぶる。

岩を巻きこんでくる風が、弱いが冷たい。三脚とカメラをセットして、スキーグローブをした不器用な指でシャッターを切る。

15秒、、、 30秒、、、
 5分、、、 15分、、、

今晩は眼下の雲がイマイチ。
東の空、オリオンが昇りつつある下で雷の稲光がときおり光るが、稲妻が見えることはなく積雲がオレンジ色に輝くだけだ。
しかし月のない、やや紫がかった漆黒の夜空に、オリオン座、牡牛座、スバルとまっすぐ天頂に伸びたラインがとくに星影濃く美しい。

日付がまわる0時頃まで撮影し下山開始。
できれば朝焼けまで居たかったが、5時50分の日の出時刻と仕事開始時刻の6時という時間を考えるとやむを得ない。それに十分に充電していなかったバッテリーも朝まではもたなそうだ。

ふたたびヘッドライトの灯りで慎重に地蔵尾根を下り、行者小屋着1時ちょい前。
先ほど稜線で見たときには東の地平線に昇りかけだったオリオンが、もう標高差400mある稜線の上に現れ始めている。星の動きは緩慢に見えて実は早い。

ぼくは広場のベンチに仰向けになり、流れ星を二つ見てから、今日という日に感謝して床についた。