2010年5月28日金曜日

中央本線の風景

やれやれ、なんだかワタワタしていた街での休暇がやっと終わって、ようやく山に戻れる……そんな気分(笑)

聞けば小屋では、ぼくが日曜日に下山してから今シーズンの宿泊者0人記録を六日間に更新中とか。下界もずっと天気イマイチだったし、さぞかし静かな一週間だったろうなぁと思う特急スーパーあずさの車内から。
夏になれば南北アルプスや八ヶ岳に出かける登山者で賑わう中央本線も、まだまだデカいザックとともに二席ゆったりと陣取れる余裕が残っている。

座席に腰かけて車窓を眺め居れば、以前浜松にいくために自転車で走った甲州街道が線路に付かず離れずでついてくるのもまた面白く、しかしまたあれが自転車にツェルトやキャンプ道具を積んでのツーリングとしては目下のところ最後になっているのを悲しくも思う。
あそこを薦めてくれたO君のいうとおり、笹子峠は気持ちのよい峠であった。ちょうど峠のトンネル手前で、臭すぎて家を追い出されたというオッサン三人組が焼いていたクサヤをたんまり御馳走してくれて、笹子峠はいつだってあのクサヤの臭いとともに思い出す。

列車はまっすぐ西進する甲州街道と離れ、塩山へ。
塩山は、言わずもがな大菩薩峠への登山口。
部活で個人で、山に自転車に、春夏秋冬、大学時代は奥多摩のつぎによく通った場所だろう。格別大きな山ではないが、なにかピクニックにでも良さそうな広々としたイメージがある。
盆地の底からポコッと生えたような「塩の山」にはいつか登ってみたいなと思いつつ結局また足を踏み入れたことすらない。『ドラえもん』の学校の裏山をひとまわり小さくしたような、絵にかいたような小山である。

甲府盆地に入って初めて姿を見せる富士山と南アルプスの高峰は、前衛の山々の濃い緑とは対照的にいまだ春遠き雪白に覆われている。
じつは富士山には一度も登ったことがないが、この時期の南アルプスといえばぼくが大学で一時所属していた部の黄金コースだ。それはそれは恐ろしい合宿で、その名も錬成合宿という。
40kg以上という、いまにして思えば歩荷並みのザックを背負わされ、木の枝を鞭にして(愛の)怒号浴びせる先輩に追われて2000mの標高差を息も絶え絶えに登る。あれを良き思い出といえるのは真性山ヤのMっ気の為せる業か……
あのとき新人だった皆、キツさの余り記憶が飛び飛びだから、いまでもあの頃のメンバーで集まると錬成の話で盛り上がる。

小淵沢のあたりで、遠方からでもよく目立つオベリスクを有する地蔵岳と黒戸尾根を前面に控えた甲斐駒ヶ岳とを左に見送ると、つぎはいよいよ右手に現れたのが八ヶ岳だ。
正解にいえば、少し左寄りの裾野のきれいな三角形の山が八ヶ岳連峰最南端の編笠山。さらに左のが西岳で、奥の山が権現岳。権現の奥に、八ヶ岳のキレットを挟んで主峰の赤岳、横岳、硫黄岳とつづく。
初めて八ヶ岳を歩いたのは高校3年生のときの夏合宿で、そのときにテント泊した行者小屋の水の美味かったことだけははっきりと覚えている。まだまだ赤岳越えがあるのに、予備の2リットルのポリタンクいっぱいに詰めて帰って、自宅でカルピスを作ったほどだった。
ぼくが大学卒業して、山小屋で働こうと決めたとき、真っ先にあたったのが赤岳鉱泉・行者小屋だったのも、あのときの記憶があったからに他ならない。

そうこうしているうちに、スーパーあずさは茅野駅に到着する。
特急の旅は、あの頃の各駅停車の旅に比べてあっという間だ。

こうしてぼくはまた、いつものように山にかえるのである。

2010年5月15日土曜日

記念日×記念日

一年前の今日、ぼくらはニュージーランドに向けて成田を飛び立った。
一年後の今日、ぼくはいつものように八ヶ岳は行者小屋で働いている。

ニュージーランドでのワーキングホリデー生活は、この行者の「いつもの雰囲気」に浸っているとすごくあっという間だった気がして、なんだかふわふわな夢の中にいたような、とても不可思議な時間に感じられる。
たしか出発のあの日も、今日みたいに暖かい、気持ちのよい天気じゃなかったか。今日のニュージーランドの天気はどうだったろう?

今日はニュージーランド生活の最後にたいへんお世話になったゴールデンベイ・カヤックのナイジェルさんとカナさんお二人の結婚式。
ポハラのビーチに面した、あの広い芝生の庭をもつ彼らのオフィス兼自宅は、美しい新郎新婦と彼らを取り囲む多くの友人たちでおおいに賑わったに違いない。お二人の明るさと他人を惹き付ける魅力はまったく驚くほどで、打診された式のカメラマン役をお引き受けできなかったのは心底残念だった。
あの青い空と海の下、お二人の人生の記念の一枚はどんなに映えたことだろう?

どうか、この太平洋を遠く隔てた日本の、しかも本州ど真ん中の山奥から祈るお二人への祝福が、彼らのこころにまで届きますように。

ところで明日からは、支配人一家が休暇で山を下りてしまうために、行者小屋は五日間ぼく一人。
まぁお客さんも多くないしずかな時期なので、のんびり小屋内を夏にむけてキレイにしたり、小屋まわりのゴミ拾いをしたり、ただただ本を読んで時を過ごそうかと思う。
あー……お客さんがいないのも困るけど、一日くらいは他に誰もいない静寂な山の生活を楽しめると嬉しいなぁ。

2010年5月11日火曜日

主稜線縦走

ゴールデンウィークも終わり、山は一年のなかでも特に静かな時期を迎えました。毎年この時期は冬山クライマーには雪が少なく、また軟らかすぎて歩きにくいだけだし、逆に夏山ハイカーには残雪が多すぎて登れないんですね。
宿泊客はおろか登山道を歩いている人影もほとんど見ない、そんな日々が一ヶ月ほどつづいて、6月あたまの開山祭の頃になるとぼちぼち咲きだす高山植物を目当てにまた登山客が戻ってくるのが、だいたい毎年の流れになります。6月も半ばになると登山道上の雪も完全になくなってあとは沢筋にわずかな雪渓が残るだけとなり、それも7月には完全に解けて、山は本格的な夏山シーズンを迎えます。

今年もいつものように小屋にスキー板を背負いあげたのですが、今年は例年よりぼくの小屋入りが遅かったために雪が少なく、ついに山を滑れたのは一回だけのまま終わってしまいそうです。
もう雪も気温でベチャベチャだし、滑るのに気持ちよい沢筋はそろそろ雪崩が恐い時期ですからね。

そのかわり、といってはなんですが、今日は支配人から「一日のんびり日!」の宣言をいただいたので、じつにぼくが小屋入りした年(つまり今から三年前?)以来となる残雪の南八ヶ岳縦走をしてきました!
手足にはストックとスキー板の代わりにピッケルとアイゼン。主稜線の縦走は一年以上のブランクがある上、本格的な冬山ではないとはいえ岩と氷雪の混じる登山道。本当に一人で行って大丈夫なのか?と心配つつも、周りの山小屋への挨拶なぞもしながらまぁとにかく行ってみたら、あっさり五時間ほどで行者小屋基点の一周できてしまいました(^^;
ホント、八ヶ岳のお手軽サイズっぷりには助かります。笑

ちなみに昨日現在の登山道状況は、稜線部では半分以上(とくに硫黄岳周辺は)雪が解けていますが、稜線上の一部と樹林帯は全体的に硬くしまった雪が残っているので、12本刃である必要はなくとも、まだまだアイゼン・ピッケルは必携です。

といっても、夕方からは雪が降りだしたので、またこれで登山道の状況もだいぶ変わってしまうでしょう。
この時期に山に入ろうという奇特な皆さんは、入山前に山小屋などに電話して、山の最新情報をゲットしておいてくださいね♪

2010年5月1日土曜日

行者小屋

午前6時の屋外気温、マイナス6℃。従業員部屋の室温、0℃。
はたして、ちゃんと仕事の時間に起きられるだろか?という初日の不安も、布団の隙間から忍びよる明け方の凍気によってまだまだ寝たいのにもう寝てられない、まったくの杞憂でした。

これぞ行者の小屋開けですね。とはいいつつ、二日前から入っていた支配人夫婦の奮闘により(?)、水パイプの開通や最低限の雪かきなど、小屋開け作業自体はすでに終わっていたのですが……

しかし朝の冷え込みが嘘のような陽気とスカッ晴れ。お山は今日も登山日和。
登山者の皆さん、天気は良いけど、雪は多いし朝晩は放射冷却で非常に雪面が硬くなりますので、安全第一で楽しんでくださいね。