たったひとつの事例を以って全体を測ることの無謀さを知らぬではないが、しかしやはり全体は個々の事例の積み重ねで構成されているのであって、ここに載せた例も現在のニュージーランドの(あるいはクィーンズタウンという街の)、少なくとも一部の現状を表しているのである。
同じフラットをシェアしているブラジル人のレイチェルが、突然ぼくらにまだまだたくさん残っている食材や日用品をくれると言ってきた。
聞けば、今週末にフラットを引き払って国へ帰ることにしたらしい。それで余った食材をタダでいいから貰ってくれというのだが、それにしても結構な量である。きっと帰国することを決めたのもつい数日前のことなのだろう。彼女がここに入ってきたのはほんの数週間前のことで、あまりに突然のことで相方とふたり驚かずにはいられなかった。
しかしここ数日、彼女が居間の電話にむかって、おそらくは故郷の家族とでも話していたのだろう、ぼくにはなんと言っているかは分からないが涙声のポルトガル語でしゃべっているのを幾度か聞いた。
実際、彼女は(まちがいなく)ぼくらより真面目に仕事を探していたにもかかわらず、その靴底の擦り減った厚さに見合うほどの結果には恵まれなかったようである。彼女は言った。
「仕事はぜんぜん見つからないし、友だちも少ないからね」と。
また、
「目ぼしい仕事は全部西洋人に持っていかれちゃうんだもん。英語を母国語とするのがいくらでもいるのに、(英語のネイティブじゃない)わたしたちに貰える仕事なんてないわよね」
とも。
これはまさに、ぼくらが暮らす現在のクィーンズタウンだ。
ぼくらが応募したスキー場の仕事も、実際に現場にいってみれば働いているのはみな英語圏からの若者ばかりで、それ以外の人間といえば、ぼくらが見たうちではもう何年もここで働いているという日本人がたったひとりいた位のものである。新聞の求人広告には"English as First Language"(英語が母国語であること)とか"Must speak fluent English"(英語が流暢にしゃべれること)といった文字が珍しくない。むしろ日本人のぼくらは、ブラジル人の彼女に比べたら、日本料理屋や日本人経営のお土産屋などがけっこうあるぶん恵まれているのかもしれない。
7、8、9月は世界中からスキーヤーやスノーボーダーが集まって、街もにぎやかだし仕事だっていくらでもあると聞いていてイメージしていたのとは随分違うような気がして、思わず首をかしげてみたくなるのが現実である。
はたして先の世界株安の影響がまだ残っているのか、豚インフルエンザのせいで観光客が少ないのか、それともただ噂だけが一人歩きしていただけで実際は毎年こんなもんなのか、その原因を究明するにはぼくにはあまりに荷が重すぎるのでやめておこう。
ただここに在るのは、真摯に仕事を求めてやってきたブラジル人の女の子が明日この街に見切りをつけて出ていくという、所詮はこの社会全体にしてみれば取るに足らないほどの些細な出来事であり、それがたまたまぼくらの目の前で発生したという、それだけのことである。
さて残される側のぼくも、つい先日、また新たに仕事応募先用にカバーレター(履歴書に添える自己アピールの手紙)を書いたところであるが、、、はたして。
2009年7月3日金曜日
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